有限会社 分散システムメソッド 代表取締役 瀧 祐
< 第一回 >
コミュニティは、
再建できない。
同じものは
二度と作れない。
瀧さんと初めて会ったのは
吉田寮祭のイベントで行われた吉田寮ツアー。
ツアーには何人か社会人が参加されていて、その中の一人が瀧さんでした。
吉田寮に関心をもつ外からの声を聞きたいと思っていた私は、瀧さんに声をかけた。
僅かな時間の中で真摯な思いに心が動かされた私は
さらに詳しく話を聞きたいと思い
改めてインタビューの依頼をお願いした。
インタビューの後、
瀧さんに吉田寮のお気に入りの場所を聞いてみると「中庭」という答えが返ってきた。
ちょうどその日は霧雨が降っていて、中庭は少し霧がかかっていた。
先の見えない中庭を瀧さんと歩くとどこまでも続く原生林の森の中にいる気持ちになって、お互い言葉を交わさずその場を感じていた。
吉田寮との関わりをお聞かせください。
瀧:高校生のときに、お前(瀧さん)は絶対京大に行った方がいいと言われたりしていたんです。まったく関係のない複数の友達から、(吉田寮に)行ってみろと誘われた事もありました。
大学に入ってから京都に遊びに行くことになっても、鴨川の河原で野宿したりして、こっち(吉田寮)には来なかったんですけれども。
敷居が高いというか、当時左翼の巣窟とか中核派のアジトとかいう噂をする人もいたので、ちょっと近寄らないでおこうかなとか思ったりはしてました。
吉田寮を訪問したきっかけは?
瀧:京都でお店をやっている知り合いから、京都に遊びに来なよと言われて、そのときにもまた吉田寮と立看の話が出たんです。
今回、立看撤去のニュースを見たときに、えぇ!そうなんだ!と思って調べたら、吉田寮もなくなるという。
で、たまたま吉田寮祭をやっているというのを見て、これは行かなきゃいけないなと思って、徹夜明けの身体で新幹線に乗って、気付いたらここにいました。吉田寮祭で吉田寮見学ツアーというのがたまたま目に入ったので、それがなかったら来なかったと思います。
吉田寮に来てどうでしたか?
瀧:うーん。建物に関しては、予想よりも汚かった(笑)いる人は、なんかものすごく繊細なんですよね。それは、なんだろう、、感じるところがありましたね。
繊細というのは?
瀧:エピソードはないですね。
うーん、がさつな人というのは、がさつなエピソードがあると思うんですけれども、
繊細な人に繊細なエピソードというのはそもそもないと思うんです。
ふとした瞬間ですよね。感覚的にしかわからないですよね。
僕が見た限りでは、全員繊細なんです。
そういう人が集まっている場なんだなと。
だから、、それがもう一回来たかった理由ですね。
私も繊細に入りますか?
瀧:はい
(笑)ありがとうございます。
吉田寮がなくなるかもしれないことに関して、なにか思う事はありますか?
瀧:いっぺんなくなると繋がってきた文化がそこでなくなってしまうんですよ。
だから僕は、どういう状況なのか、吉田寮というのはどういう場所なのか、そもそもわからなかったので、自分で見てみないとと思って来たんです。
これだけ長い間自治寮として続いてきたからには、なんて言えばいいかな、言語化できない文化っていうのが絶対あると思うんですよね。
「言語化出来ない」とても興味深い言葉ですね。
実は寮生も吉田寮の価値を言語化しようと試みたのですが、当てはまる言葉を見つけることが難しく頭を悩ませています。
瀧:そういうもんだと思うんです。言語って後付けなんです。
そもそも僕の専門は、システムアナリストなんです。
人が動いているところにどういうシステマチックな動きがあるかっていうのを分析してコンピュータ上のシステムをどう構築するか考えるのがシステムアナリストの仕事なんだけれども、ヒアリング(聞き取り調査)って、だいたい役に立たないんですよ。
なぜかっていうと、人間って自分が動いている、自分の最も重要な部分というのは、重要な部分だからもう体で動いちゃっているんですね。
そして、なにが重要か聞いたときにこれが重要だということを自分じゃ言えないんです。というか、自分で重要だと思っていないんです。
一番重要なことを自分で重要だと自覚できていないというのがほとんどの人間なので。だから、どれだけ言語化しても、言語化できない部分というのがあって、それを見るのが、僕の仕事なんです。
瀧さんのお仕事は「非言語」の重要さを見つめる仕事なんですね。
吉田寮に来られた理由が分かった気がしました。
瀧:これ(吉田寮)がなくなってしまったら、この文化というのは失われてしまうだろうから、それを感じてみたいと思って来たんです。で、感じた結果、やっぱりこれはいっぺん解散してしまったら、失くなってしまうだろうなと思いました。
現在大学は耐震補強ができていない古い棟だけではなく、新しく出来た棟からも退去しなさいという方針を出しています。
それにはコミュニティ自体、つまり寮自体をなくしたいという大学側の意図があると私達は思っています。それに関しては、どう思われますか?
瀧:建物の問題と自治寮というコミュニティの問題と両方あると思うんです。
建物が朽ちていくものはしょうがないですけれど、コミュニティというのは、再建できないので。
繋がってきたものを繋いでいかないと、いっぺん切ったら、そこで絶対になくなってしまう。同じものは二度と作れないですから。
吉田寮生に何か伝えたいことはありますか?
瀧:なんだろう、僕が言うことなんて何もないと思うので。
ここに来て、いやあ、大学からやり直したいなと思いました(笑)
僕ははっきり言語化されていないものを見るというのが仕事だったりするので、先々週来て、昨日来て思うのは、何かすごくいいんですよね。集まっている人たちが。だから、この集まり方を残して欲しいと思います。
インタビュー前の雑談で大学のときに出会っていたら、人生が変わっていたかもとさっきおっしゃったんですけれども、それは今の学生もそうかもしれないですね。
学生のうちに出会うことが大事なのかなと。こういう空間に。
瀧:実際に魅力を伝えようとしても伝わらないですよね。なんだろう、場がいいんですよ。場がいいというのは、絶対に言語化できないので。だから、外に向かってアピールできないというのが、ここの良さの裏返しというのもうなずけます。
<略歴> 瀧 祐
学生の頃、内藤陳が会長をしている日本冒険小説協会の公認酒場「深夜プラスワン」に深くかかわる。同協会で神田市場の仲卸向けシステム開発をしていた人と知り合い、市場に遊びに行くようになる。
神田市場が太田に移転することになった際に、人が集まらなくなると文化がなくなり、なくなった文化はもう再生出来ない事を体験する。現在は有限会社 分散システムメソッド代表取締役。居住、東京。吉田寮訪問は2回目。